香港ポストコラム 『(続)契約不履行時の法律上の救済方法』
- 2016年11月23日
- カテゴリ:column
賠償額の予定条項
契約書の中には、違約の場合の賠償額が書いてある条項がある契約書もあります。そうした契約書の場合は、違約した時に、賠償金額の計算について法廷に行かずに済ますことができます。そのため法廷もこういう条項を推奨しています。ただし、コモンローの原則として、懲罰的な賠償(訴訟が稼ぐチャンス)ではなく、賠償が基本的な考え方です。もし法廷がその条項に書いてある賠償額が被害者への賠償ではなく違約した人を罰するためであると判断した場合は、その条項を無視する可能性もあります。
商品販売条例での解釈
商品販売条例(Sales of Goods Ordinance)(香港法律第26章)によると、売り手が不当に商品を買い手に送付しない場合、買い手は賠償として売価と市価の差額がもらえるとされています。もし売価が市価と同じ、もしくは市価より高い場合、買い手は基本損害賠償をもらえます。例えば、CはDに400ドルで百キロのりんごを売る契約をしましたが、CはDにりんごを送付しませんでした。同じ種類と品質のりんごの市価は450ドルです。この場合、Dは450ドル—400ドル=50ドルを賠償金としてCに要求することができます。逆に、買い手が売り手に約束の金額を払わない場合は、売り手も売価と市価の差額を要求することができます。もちろん、前提としてその商品にはマーケットがなければ成り立ちません。
損失の緩和
一般的には、違約された側は違約された後、自分の損失を緩和するために何らかの行為を行います。もし違約された側が合理的な行為を取らなかった上にさらなる損失が生じた場合は、その損失は賠償されません。
名誉毀損と感情の障害
感情の障害(例えば失望や苦痛)は一般的に賠償してもらえません。ただし以下の例外があります。
①もしその感情が契約上非常に重要な要素である場合。例えば旅行会社が「この貸し別荘は景色がきれいで施設が充実していて絶対楽しいですよ。」と宣伝し、実際にお客が宿泊したところ、施設が全部整備中で景色も宣伝写真と大きく異なり、全然楽しめませんでした。この場合、旅行では「楽しさ」が大事なため、お客は旅行会社に気持ちの障害賠償を要求できる可能性があります。
②契約違反の結果、身体障害者となり、その障害から生じた苦痛分は賠償をもらえるでしょう。
感情の障害と同じく、名誉毀損は一般的に賠償してもらえません。でも、もしその名誉毀損が直接的にお金の損失と繋がる場合は、賠償をもらえます。
賠償金額の計算時点
一般的に賠償金額の計算は契約違反をした時点で計算します。しかし、もし違約された人がその違約に気がつかなかった場合は、合理的に違約されたことに気がついたはずの時点で賠償額を計算します。
衡平法上の賠償
衡平法上の賠償は、コモンロー上の賠償が不十分なときのみ適用できます。衡平法は公正さが大切なので、その賠償は公正でなければなりません。一番よくある衡平法上の賠償は特定履行と差し止め命令です。
a 特定履行
特定履行とは『ある行為の実施』を請求できる契約条項のことです。これはお金の賠償のみでは不十分な時に使用します。例えば、土地の売買や、世に1つしかない商品の売買など、お金を賠償しても同じ商品を買うことができない状況時に、違約した売り手が契約どおりに商品を買い手に売る命令をする可能性があります。
b 差し止め命令
差し止め命令は、契約上禁止されたことを実施することです。例えば、「EはFからしか電気の購入をしません。」という契約条文でEが他の電気供給者から電気を買うことを禁止されているとします。もしEがその条文を破った、もしくは破りそうになると、Fは差し止め命令を請求し、Eが他の供給者から電気を購買することを禁止することができます。しかし、差し止め命令は雇用契約では不適用となります。
民事訴訟の時効
基本的に民事訴訟の時効は六年間です。しかし、状況により異なりますので、万が一契約違反された場合には、早めの検討が必要です。
(このシリーズは月1回掲載します)
ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めていた。日本語堪能
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