column:中小企業のための法務講座『香港における企業買収(M&A)① 』 

中小企業のための法務講座『香港における企業買収(M&A)① 』 

中小企業のための法務講座『香港における企業買収(M&A)① 』 

中小企業のための法務講座


香港における企業買収(M&A)①

 香港でビジネスを行いたい日本の投資家にとって最も手っ取り早い方法は、既に香港にある会社を買収することです。もちろん購入前に弁護士や会計士によるデューデリジェンスを入念に行うことの重要性は言うまでもありません。

 香港法人であるにも関わらず、買収時の契約をきちんと香港法の弁護士に確認してもらわなかったばっかりに(そのケースでは日本の会計士や弁護士もついていたようですが)、費用の回収が出来ないばかりか訴えると逆請求されるというケースもありました。買収後の会社経営を成功させるためにはどうしたら良いでしょうか。

⒈デューデリジェンスだけでは足りない?
 多くの投資家が重要視しているデューデリジェンスですが、デューデリジェンスの結果はあくまでも「いままで」の状態であって、その状態が買収後にもそのまま継続することを保証してくれるものではありません。買収後には買収前とはまた違った点に気をつけなければなりません。

⒉従来のスタッフを味方にする
 海外投資家として、自分が海外の会社に投資する時には、自己保護の意識を持つことが重要です。従来のスタッフと新しいオーナーとの間の軋轢が会社を破たんに導くことは決してめずらしいことではありません。スタッフは自分の会社にある程度の愛着を持っていますから、自分の会社が買収されることに対して心理的に抵抗を感じます。環境の大きな変化は人に不安感を与えますから、その変化をもたらした新しいオーナーをすべてのスタッフが好意的に受け入れてくれるとは限りません。また、日本と香港では文化が違うことにも配慮が必要です。

⒊現地のスタッフに任せすぎない
 理想的なのは、日本から信頼できる人物を香港に派遣することです。その場合にも逐一情報が届くシステムを作る必要があります。しかし、日本から香港にスタッフを派遣することが出来ず、従来の香港のスタッフに経営を任せるしかない場合、オーナーとして会社経営への影響力を持ち続けるためにはさらなる工夫が必要となります。例えば以下のようなものが考えられるでしょう。

①情報の共有化

 経営の状況、会計、取引などについて、必ず毎週あるいは毎月、定期的な報告を義務付け、また、日常のビジネスメールも必ずCCにより、自分のところにも情報が入るようにさせましょう。

②株主総会と取締役会への参加、議事録の作成

 香港では、すべての会社は株主総会を開くことが法律により義務付けられています。また、会社の重大な決定の全ては役員会で行われます。出来れば会社の所有者として株主総会にはもちろんのこと、役員会にも参加することが理想的です。もし、日常的に行われる役員会に参加することが難しい場合、最低限、役員会に議事録を作成させ議事録を通じて会社の動きを管理しましょう。ちなみに少数株主であっても、大株主にその権限を悪用されないために、株主総会には出席し、出席できない役員会や株主総会についてはその議事録を通じて会社をチェックすることが重要です。

③金銭的実権を握る

 会社の判子、印章、銀行の手帳など重要なものは出来るだけ自分で管理しましょう。しかし、日常の業務に必要なものは現地のスタッフに預けざるを得ない場合、重要なものは管理者を定め責任の所在を明らかにしましょう。そして、無条件で返却を受けることができるように、その管理者との間に書面で契約を残しておきましょう。

 また、事前に署名した小切手帳を現地スタッフに渡してはいけません。香港はサイン文化ですから、ハンコなしでも十分に機能してしまいます。もし現地スタッフがその小切手を悪用したとしても、そのような小切手を渡したオーナーの責任が免れず、損害請求を行うことが難しくなります。

 次回はより法律的な観点から説明しましょう。

(このシリーズは月1回掲載します)

筆者紹介

アンディチェン

ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めていた。日本語堪能
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