コラム:中小企業のための法務講座『刑事逮捕の対策(1)』

中小企業のための法務講座『刑事逮捕の対策(1)』

中小企業のための法務講座『刑事逮捕の対策(1)』

中小企業のための法務講座
刑事逮捕の対策(1)

日本であれば、何らかの犯罪被害にあった場合、自分で警察へ届けるのでしょうが、アウェイの香港だからか、『弁護士に付き添って欲しい。』、『スタッフが横領しているので通報したい。』或いは、『捕まってしまったので、弁護をお願いします。』と、被害者や被疑者として弁護に当たることがあります。

 刑事事件は、政府への対応が必要となるためか日本人弁護士はあまりやりたがらない仕事のようで、被害者と加害者側の両方から話が来てしまったこともある位、『日本語』という点から弁護士を探すと狭い世界です。まして週末や夜間に逮捕などがあると、通常、法律事務所は、お休みのためどこも電話が繋がらないでしょう。ただ現実には、刑事事件は、初期の対応が非常に重要です。そのため、当事務所は、週末でも電話を転送しているので、場合によっては、対応できるかもしれませんし、非常に助かったとおっしゃるクライアントもいらっしゃいます。

逮捕時の法律原則
⑴家族や親友へ連絡する権利
⑵弁護士を探す権利
⑶黙秘権

 多くの日本人の方は、黙秘権を行使せず、弁護士の同席がないままに取り調べを受けてしまっています。初めての逮捕(しかも海外で)のストレスからか、警察との雑談の時に話しやすい環境にはめられ、不必要に話し過ぎてしまう印象です。正式な尋問の時に、まず簡単な質問や答えやすい質問を聞かれ、警戒心を解いた時に本当に警察が聞きたい「本番」の質問に聞かれて、ついつい無警戒のまま自分にとって不利な事を述べてしまうことが多いようです。たくさん話せば、警察に同情して貰えると勘違いした、あるいは、自分の無罪を説明したがるなどです。

 これらの誤解は致命的です。そもそも、『逮捕された。』ということは、警察が相当な疑いを持っている状態であり、自分が無罪の人を逮捕した意識は全くなく、同情するはずもありません。

 香港での刑事の原則として、容疑者の有罪を証明するのは警察と検察の仕事であり、自ら警察に協力する必要は全くありません。警察自身が調べるべき事(証拠を集めるのは)を、自身の発言により有力な証拠となってしまい、自分の「有罪」をかえって加速させる結果となることは、非常に気の毒に感じています。

 『警戒調書』は、自分が警察署で話した内容が裁判所に証拠として提出され、裁判所に重視されるものです。その警戒調書を裁判所で裁判所で(つまり自分が供述した内容)をひっくり返すのは至難な作業になります。なぜなら、日本人の場合は、政府がアレンジした通訳人である第3者が同席し、調書を取る過程はほとんど録画されるからです。そのため、警察の不正(勧誘、警告不足、暴力など)という理由で警戒調書をひっくり返すのは不可能に近いのが現実です。

 弁護士がいるときといない時の警察の態度は全く異なるという被疑者からの話もあり、万が一、捕まった場合は、弁護士をお願いしたい旨警官にお願いし、弁護士が来るまで何も話さないのがベストでしょう。(続く)

(このシリーズは月1回掲載します)
筆者紹介

アンディチェン

ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めていた。日本語堪能
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