コラム:香港ポストコラム 『香港におけるM&A』

香港ポストコラム 『香港におけるM&A』

香港ポストコラム 『香港におけるM&A』

中小企業のための法務講座

香港におけるM&A

 全世界経済一体化の流れのなか、近年ますますM&Aが増加しています。それを受けて、中国ではここ10年間、M&Aに関する法律が次々と整備されてきています。一方、香港においては、M&Aの法的意味については規定されていない状況です。このような状況下で、香港におけるM&Aは、どのように行われているのでしょうか。

M&Aについての法律

 香港では、おおむね会社は「公開会社」と「私会社」に分けられます。香港の会社法において、私会社の定義のみがされていることから、私会社以外を公開会社としています。

 そして、M&Aについては、公開会社のうちの上場会社については、上場ルールで定められていますが(上場ルールは複雑すぎるのでこの論稿ではふれません)、上場会社以外の会社のM&Aについては法律の定めがありません。つまり、売主と買主の両会社ともが上場会社でない場合には、何の規制も受けることなくM&Aを行うことができるのです。

M&Aのターゲット 
M&Aのターゲットとなるのは、①会社そのもの、②会社のビジネス、③会社の資産、です。例えば、保険、消費者金融、クレジットカードなどを手掛けるA社があったとします。同じく保険ビジネスに進出したいB社があり、A社に興味がある場合、B社には以下の選択肢があります。

①A社を買収する。(つまり、A社の株を取得する)②A社の保険ビジネスについてのみ譲り受ける。③A社の保険ライセンス、ノウハウ、顧客リストについて譲り受ける。

流れおよび必要書類

①基本合意書 /了解覚書(MOU)

 話し合い段階で、まず基本合意書と了解覚書を結びます。相手方とのM&Aに興味はあるけれど、具体的な契約にはまだ至らない段階です。話し合いの結果(通常4カ月から半年)、条件が折り合わない場合には、M&Aの話はなかったことになります。つまり、この書類からは、秘密保持と他の買収希望者との連絡禁止以外の法律義務は生じません。

②秘密保持契約書(NDA)

 秘密保持契約書(NDA)は、M&Aについて、全ての情報を一切他の人に漏らさないことを約束する文書です。場合によっては、買い手を守るために、特定の期間、売り手が他の買い手との連絡を禁止されることも多くあります。

③デューデリジェンス質問とレポート

 買主は、弁護士や会計士に、対象企業および、その所有する不動産やビジネスについて、徹底的に調査を行わせ、レポートを作成させます。

④売買契約書

 売買契約書 は、M&Aにおける正式な契約です。この書類は買主の弁護士によって用意され、条件、スケジュール、支払い方法、金額、そして両社の義務、権利や責任が詳細に記載されます。買主を守るために売主からの保証や陳述を記載することが最も重要です。

⑤ディスクロージャー・レター
 これは売主が用意する書類で、対象会社に関するあらゆる情報を記載するものです。名前から想像される以上に、非常に大量の書類で、アメリカ式の場合、20〜30箱あってもおかしくはありません。通常、M&Aは時間をかけて行うため、その期間中に、突然景気が悪くなるなど、両社をとりまく環境が変わることが多くあります。そのような場合には、契約を無効としたい買主が、このディスクロージャー・レターに売主が書き忘れた何らかの重要な事項を探し出し、それを理由に契約を無効とすることがあります。このような事態を避けるためには弁護士を使って、完璧な書類を用意する必要があります。

⑥取引日 

 売買契約書に記載された取引日に、買主が現金や株の交換などによって支払いをし、売主が株の譲渡書類や会社の対象資産やそれに関連する書類を買主に手渡すことによってM&Aは終了します。
 上場企業以外のM&Aについて法律の定めがないということは、大きなビジネスチャンスである反面、弱肉強食の市場でもあるということです。 新たなビジネスの拡大のため、あるいは、今のビジネスを守るため、本論稿がお役に立てれば幸いです。

(このシリーズは月1回掲載します)

筆者紹介
アンディチェン

ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表

米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めている。日本語堪能
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