コラム:香港ポストコラム 長期服務金(Long Service Payment)のMPF相殺禁止

香港ポストコラム 長期服務金(Long Service Payment)のMPF相殺禁止

香港ポストコラム 長期服務金(Long Service Payment)のMPF相殺禁止

香港立法会が2022年6月9日に可決された『MPF相殺廃止』が2025年の5月1日からスタートします。

MPFとは?

MPFとは、Mandatory Provident Fund(強制積立金)の略称であり、2000年より香港でスタートした香港の年金制度です。香港ではMPFへの加入が義務付けられており、雇用主と従業員が所得の5%、上限1500香港ドルずつを積立し、MPF口座に毎月積み立てし、特別なケースを除き65歳まで引き出す事が出来ません。

『MPF相殺廃止』とは?

これまで香港では、会社都合の解雇される従業員には、退職金を支払う必要があり、その退職金は、当該従業員のMPFの雇用主積立金から相殺することが可能でした。

2025年5月1日から、この相殺が禁止されることとなりました。ただ、2025年5月1日以前から雇用されている従業員が、施行後に従業員を解雇、または退職させた際は、5月1日までの間の解雇保証金と長期服務金は、引き続きMPFの雇用主積立金から相殺することが可能です。これは、香港政府が、このMPF相殺廃止の施行日前のリストラを防ぐためです。

もちろん相殺は義務ではなく、あくまで香港法上の制度です。制度以上の設計にすることは何の問題もなく、日系企業の中には、MPFの雇用主積立金とは別に、退職金を支払う会社も多くあります。

解雇保証金と長期服務金の受給資格

従業員は、以下の条件を満たすことにより、解雇保証金または長期服務金を受け取ることができる。従業員は同時に長期服務金および解雇保証金の両方を受給することはない。

権利 解雇保証金 長期服務金
雇用期間の要件 継続的契約に基づき24ヶ月以上の雇用* 雇用契約にもとづき5年以上雇用
条件・要求 従業員が余剰人員整理に解雇された時* 以下の条件を除き、従業員が解雇された時
‐重大な違法行為により懲戒解雇

‐余剰人員の整理による解雇

余剰人員整理の理由により、規定の雇用契約期間満了後に更新されなかった時* 規定の雇用契約期間が満了後に更新されなかった時**
従業員が一時解雇された時 従業員が死亡した時
従業員が健康上の理由で辞職した時
65歳以上の従業員が辞職した時
* 雇用主が契約の終了日または満了日の7日前までに、被雇用者に対し、契約の更新または新たな契約による再雇用を書面で要請し、被雇用者がその要請に応じることを不当に拒否した場合、被雇用者は退職金を受け取る権利はない。

** 契約満了日の7日前までに雇用主が被雇用者に対し、契約の更新または新たな契約による再雇用を書面で要請し、被雇用者がその要請を不当に拒否した場合、被雇用者は長期服務金を受け取る権利はない。

余剰人員整理(Redundancy)の意味

従業員の解雇が以下の事由による場合、人員削減を理由とする解雇とみなされる:

– 雇用主が事業を閉鎖した、または閉鎖する予定である;

– 雇用主が従業員を雇用していた場所での事業を停止した、または停止する予定である。

または

– 従業員が特定の種類の業務を遂行することを事業が要求している場合、または従業員が特定の種類の業務を遂行することを事業が要求している場合。または従業員が雇用されていた場所において特定の種類の業務を遂行することに対する事業の要求が停止もしくは減少した場合、または停止もしくは減少が予想される場合。

解雇(Lay-off)の意味

雇用主に提供された業務に報じて報酬を支払うという条件のもとに雇われた従業員が雇用されている場合、仕事が提供されず、賃金が支払われない日数の合計が、以下の日数を超える場合、その被雇用者は解雇されたものとみなされる:

– 連続する4週間における通常の労働日数の半分、または

– 連続する 26 週間において、通常の労働日数の 3 分の 1 を超えた場合。

ロックアウトの日、休息日、年次休暇、法定休日は、上記の期間中、通常の労働日として数えるべきではない。

解雇保証金/長期服務金の額

解雇保証金と長期服務金の計算式は以下の通りです:

月給の従業員 (最終の月額賃金(*)×2/3)×算定可能な勤続年数
日給・出来高制の従業員 (解雇直前の通常の勤務30日間のうち、従業員が選択した何れの18日間の賃金#×算定可能な勤続年数
1年に満たない勤続期間の場合は、日割りで計算する。

*従業員は、雇用契約終了直前の12カ月間の平均賃金を計算に使用することもできる。

# この金額は22,500香港ドルの2/3(すなわち15,000ドル)を超えてはならない。

最高限度額

もし雇用契約の解除日が、2003年10月1日以降の場合は、解雇保証金または長期服務金の最高額は39万香港ドルとなる。

解雇保証金の支払い

解雇保証金の支払いを希望する従業員は、解雇・レイオフの効力発生後3ヶ月以内に雇用主に対して書面による通知を行う必要がある。労務局の承認があれば、通知書の提出期限を延長することができる。労務局が認めた場合、その期限を延長することができる。雇用主は、このような通知を受け取ってから2ヶ月以内に従業員に退職金を支払わなければならない。

罪と罰則

合理的な理由なく従業員に退職金を支払わなかった雇用主は起訴され、有罪判決を受けた場合、最高$50,000の罰金が科せられる。

長期服務金の支払い

長期服務金は、雇用契約終了日から7日以内に従業員に支払わなければならない。

罪と罰則

合理的な理由なく故意に従業員への長期服務金の支払いを怠った雇用主は、起訴され、有罪判決を受けた場合、35万ドルの罰金および3年の禁固刑に処される。

筆者紹介

ANDY CHENG 鄭國有
弁護士 中国委託公証人 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めていた。日本語堪能
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