コラム:香港の民事訴訟 Civil Litigation ④

香港の民事訴訟 Civil Litigation ④

香港の民事訴訟 Civil Litigation ④

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(c)   訴答書面
訴答書面とは、原告側と被告側が各自の主張(特に自分の論点を立ち上げのための重大な事実関係)を正式に書面で述べる書類である。お互いに争いのある事実関係と法律争点を確定させる段階である。
書面訴答の目的は、相手方に自分の論点を通知することであり、これは証明とは異なる。事前にお互いに十分な情報を交換することにより裁判のために証拠の収集など各自の準備に資する。当事者間の争点を十分に記録して、同様の争いで再び裁判を起こすことを防ぐ役割や裁判時の論争範囲を制限する機能もある。このため民事訴訟の帰趨を決する上で書面弁論は極めて重要な段階である。不明確な論点や矛盾点があった場合、釈明や修正が求められ、最悪の場合、自分の論点の一部あるいは全部が裁判所によって取り消される。
 召喚状は、特別な場合を除き、通常、原告側の事実の概要を記した請求明細(Statement of Claim)が添付される。
 被告が請求を争う場合には、請求を争う意向を記載した送達受領書(acknowledgement of service)を送達後14日以内に提出し、更に送達受領書を裁判所へ提出後14日間以内に答弁書(Defence)やもし必要があれば逆請求(Counterclaim)を提出しなければならない。
 次に必要があれば原告側は答弁書への反対訴答(Reply)を提出する。
 また被告が原告に反対請求をした場合には、原告は、逆請求への答弁(Defence to counterclaim)を提出しなければならない。上記の請求明細書、答弁書、逆請求、反対訴答を、訴答書面(pleadings)と総称する。場合によって被告側の第三者通知(Third party notice)*註2、あるいは、更に詳しい明細(Further and better particulars)という書類も訴答書面に含まれる。ここで書面訴答の段階は終了と理解してもよく、専門的には、お互いの論争点の合流(joinder of issues)と言われ、この論争点が正式な裁判所の論争点となる。書面訴答の内容は民事訴訟法により厳しく制限される。ただ重要な事実関係のみを全部簡潔かつ具体的に述べることが求められる。 
これまで、原告側は請求明細書の内容に対して、被告側は答弁書の内容に対して、修正が頻発し、訴訟費用と時間がかなり費やされていた。更に、裁判の戦略として悪用され、例えば、原告側は最初から出すべき主張を書面訴答の最後の最終段階まで述べない。あるいは、自分の主張を突然180度修正するなどである。このため、2009年の司法改革(Judicial Reform)により、以下の対策が導入された。
— 全部の書面訴答の最後の段階で必ず関係当事者の署名済みの真実陳述書(Statement of Truth)を添付する。原告者であれ被告者であれ、本人の場合、その本人が署名する。法人の場合は法人の代表者が署名する。
— 真実陳述書とは、当該書面訴答の内容は間違いなく正しいという正式な確認書である。
— 修正権利の悪用と判断されると、裁判所は当該修正を拒否し、あるいは、修正を許したとしてもその費用を負担させる。最悪の場合、陳述書の署名者は刑事責任も問われる。

(d) 情報開示と交換
 書面訴答の段階を終了した途端、民事訴訟規則により、情報開示の段階に自動的に入る。原告および被告は、係争事実および事項に関連したまたは関連する書類のリストを交換し、お互いに、当該書類の写しを閲覧可能な状態にする。
情報開示の目的は、①相手方に十分な準備の機会を与えること、②相手方への不意打ちの防止,③和解の勧め(もし、相手方の情報を知り、自分の敗訴可能性が高いと分かったとき)である。

(e) 証人陳述交換
裁判を行う前の最後の段階 とは 、証人陳述(witness statement)と必要があれば専門家レポートの交換である。書面訴答の段階と同じく、該当証人は必ず署名した陳述書を添付する。

(f) 裁判準備の決着
裁判の前段階の準備が全て整うと、本案審理に入るため、裁判の日程を取り正式な裁判日を決める(Set down for trial)。

正式審理以降の流れについては、文字数の関係もあり今回の執筆では述べないこととする。

註2
第三者通知とは被告が自分の責任を移転あるいは減らすために、第三者を該当訟訴に被告として追加させる。例えば、交通事故の訟訴で被告であるドライバーが車メーカーも責任があると判断した時に、裁判所にその車会社を被告として追加させる要請である。

ANDY CHENG 鄭國有
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めていた。日本語堪能
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アンディチェン

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