column:中小企業のための法務講座『香港にある資産の相続』

中小企業のための法務講座『香港にある資産の相続』

中小企業のための法務講座『香港にある資産の相続』

中小企業のための法務講座

香港にある資産の相続
 日本人が香港でビジネスをしたり、香港上海銀行(HSBC)にお金を預けたり、香港で投資をする人が増えるにつれ、相続の相談を受けます。今回のコラムでは香港にある資産の相続についてご説明します。

香港貿易発展局(HKTDC)の日本向けプロモーション
「Think Gloval Think Hong Kong」で相談者との相談中の様子
 
⑴故人の財産が香港にあると分かった時に確認すべき点

①遺言の有無
 遺言があるかないかによって手続きの簡便さが異なります。香港に資産をお持ちの方には遺言の作成をお勧めします。法的に有効な遺言のある場合が有遺言死亡者(Testate)、遺言のない場合が無遺言死亡者(Intestate)です。

 遺言がある場合には、相続の手続きを行う執行者や、相続を受け取ることのできる受益者など、すべて遺言に従うことになります。遺言がいくつかある場合には、原則として最後に作成されたものが有効な遺言となります。
 遺言がない場合には、執行者や受益者は法律の定めに従って決定することとなります。内縁の妻や、前妻、私生児の有無などの調査が必要となります。

②亡くなった日
 亡くなった日が2006年2月11日以降ならば相続税は不要です。その日以前ならば、相続税がかかるため税務局での手続きが必要となります。

③相続財産の確定
 相続の対象となる財産を確定します。相続額が15万ドル以下で、なおかつ銀行の預金や現金などのシンプルな資産であれば直接、遺産承弁署(Probate Registry)の遺産管理者に簡易手続きを頼むことができます。

⑵相続の執行者の選定
 
 遺言がある場合には遺言の中で指名された執行者(executor)が相続の手続きを行います。遺言の中で執行者が指名されていない場合には法律の定めに従って執行者が決定されます。この規定は複雑なためここでは割愛します。

 遺言がない場合には以下の順番で執行者となります。
①配偶者あるいは1971年までの間に内縁の妻または夫であった者(1971年までは内縁の妻または夫に対して法的な立場が認められていました)
②子供あるいは内縁の妻または夫との間の子供(子供が先に亡くなっている場合にはその子供の子供、つまり孫)
③親
④兄弟姉妹

⑶相続の受益者とその配分額
 
 遺言がない場合には、以下の順番で受益者およびその配分額が決定されます。これらは十以上の順位があるため、上位三つのみ取り上げます。

①配偶者はいるが、子供、両親、兄弟姉妹(その子供も含めて)がいないときには、配偶者が100%の権利を相続します。
②配偶者と子供がいる場合には、動産はすべて配偶者のものとなります。さらに遺産の50万ドルは配偶者に渡され、その残りを50%ずつ配偶者と子供が相続します。
③配偶者と親あるいは兄弟姉妹がいる場合には、動産はすべて配偶者のものとなります。さらに遺産の100万ドルは配偶者に、残りの50%を配偶者が相続します。もう一方の残り50%分は親がいれば親が、親がいない場合には兄弟姉妹が相続します。

⑷日本人が相続する場合の注意点
 
 香港からの相続は長期戦を覚悟した方がいいでしょう。理由は以下の3点です。

 相続手続きのための調査を香港だけでなく日本でも行わなければならないため通常の2倍の時間がかかります。日本における相続手続きや遺言の有無、他の相続人の有無などを遺産承弁署が徹底的に調査します。また、証明書類として必要な婚姻関係や親子関係の証明、死亡証明など日本の書類を香港で提出する際に翻訳する必要があり、別途お金と時間がかかります。

 そして重要な行程は、遺産承弁署の審問に答えることです。遺産承弁署は糾問主義であり、大変細かいことまで質問されます。さらに日本での状況について説明し理解してもらう必要があり、これが大変な作業となります。
 遺言や信託を利用し、効率的に資産継承するために、生前から弁護士と共に準備をしておくことをお勧めします。
(このシリーズは月1回掲載します)

筆者紹介
アンディチェン

ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めている。日本語堪能
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