コラム:香港信託の基礎

香港信託の基礎

香港信託の基礎

 

香港信託の基礎

 

機内でリチャード・ギア主演『キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け』というハリウッド映画を見ましたが、その中でも信託が出てきました。前回に引き続き信託についてです。
信託の構成

信託は①委託者②受託者③受益者——により構成されています。場合によっては委託者と受益者を同一人物がなることもできますが、受託者は受益者にはなれません。

①委託者とは、もともと、信託資産の本来の所有者です。彼は信託設立時にその資産を信託に譲渡します。

⒜誰が委託者になれるか?

成年で精神障害のない大人であれば誰でも信託を作れます。主要なオフショア地域と同じく香港では、外国人も香港で信託を作れ、ノミニーでも委託者になれます。

⒝有効な信託

信託の成立は委託者が信託を作る意向をはっきりさせることで成立します。それがないと、その信託は裁判所に無効と判定されるかもしれません。

⒞委託者に関する誤解

多くの人は資産が信託され譲渡されても、以前と変わらず委託者が信託財産を自分の資産として支配できると思っていますが、それは全くの誤解です。資産を信託し譲渡するということは、その委託者はその資産に対するオーナーシップと支配権を放棄することに等しいのです。

⒟信託の中での受託者の「権利」

一部の「権利」を契約により留保することもできます。例えば、信託そのものを取り消す権利や保護者(注)の委任/解任の権利などを委託者に留保しておくのです。注意していただきたいのは、この「権利」は極めて狭い範囲でしか認められていない点です。日常的に信託資産を利用したり運営したりする権利はやはり受託者に任せることとなります。なぜなら、委託者が信託資産に手を出し過ぎると、信託の形をなさないものになってしまうからです。裁判においても、そのアレンジにより信託契約にあたらないと判断されてしまうかもしれません。

②受託者とは、信託資産の法的所有者として、信託の指示の元に受益者のためにその信託資産を管理し、支配する権利および義務を有する者です。一番重要なのは、法的には信託資産は決して受託者の物になるわけではなく、もらえるものは管理費のみです。もし受託者が自己破産したり、亡くなったりしても、彼の後継者である破産管財人や相続執行人はその信託資産に干渉することはできません。信託書類によって受託者には報酬をもらう権利があります。また無償の場合もあります(例えば、妻、兄弟が受託者の役をやる場合など)。

言うまでもありませんが、信託資産をすべて第三者の名義に移すこととなるため、受託者を選ぶ際には注意が必要です。条件としては彼らが資産管理上、受益者に対して用心の義務、誠実、適性がある要素が必要不可欠です。

精神障害のない成人であれば、受託者になれ、政府に登録する義務もありません。その上で自分の妻、愛人から弁護士、会計士、銀行関連信託会社、専門受託者など誰に任せるかは委託者の自由です。

⒜受託者の権利

受託者の権利は主に信託証書により決めます。例えば、どういうふうに信託資産を投資するのか、いつ、いくら、何を受益者にあげるのかや、資産管理のために他の専門家を雇う権利を受託者に与えるかなどを定めます。その権利は信託証書で拡大したり制限することができます。もし、ある特定の事項が信託証書に記載されてない場合、香港法律である「信託条例」の条文が適用されます。

③受益者とは信託証書の中に選ばれた特定の人物で、原則として、年齢問わず誰でも受益者になることができ、信託資産の「成果」を享受できます。つまり所有権のうち受益権だけを有しているのであり、信託資産の法的名義を持っていない状態ですので、その資産を支配したり管理したりすることはできません。

※注:保護者は信託証書の指示を受託者に実行させるために委託者に指定された人です。例えば、受託者が受益者に信託資産を配る際に必ず保護者の同意をもらうことを要します。簡単に言えば、保護者の存在は受託者が信託証書の指示を守るということについての保険の役割を果たします。(このシリーズは月1回掲載します)

 


筆者紹介

ANDY CHENG

弁護士 アンディチェン法律事務所代表

米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めている。日本語堪能

www.andysolicitor.com
info@andysolicitor.com

タグ:, , , ,


このページのトップへ